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プログラミングのメモ、海外投資のメモ

住友銀行秘史

住友銀行秘史

住友銀行秘史


 バブルの象徴として名高い「イトマン事件」の告発当事者(住銀)のメモを基にした備忘録。メモの抜粋が紙面の多くを占めているのでページ数のわりには短時間で読了した。


 反社に付け込まれた上場企業がキャッシュの引き出し器として食い物にされていく姿が克明に描かれている。 当事者がメモから起した記録であるのでリアリティの面では申し分ない一方、中立性の問題からどこまで信憑性があるかは判別できない。
 本文中ではぼかされているものの、筆者の協力者として描かれている人物さえも反社の人間であることからその複雑さが窺い知れる。
 しかし書かれている事柄だけでも現在では一発懲戒かお縄の犯罪オンパレードである。そういう観点からは今(2020年夏)話題の、銀行を舞台としたテレビドラマよりはるかにシビれる内容である。



 また、銀行・反社・協力企業・政治のカネを巡る癒着の酷さからは、当時のニュースを知っている世代が株式や不動産取引に及び腰になるのは仕方がないと思えるようになる。



 随所で気になった、登場人物たちは損失が膨らんでいくこと・このままでは破滅することを明敏に考察しながらも何故か責任者を更迭するという本丸に中々切り込めないでいることである。そして結局、マスコミにリーク→規制官庁の介入という外圧を使って解決を図っている。


 個人的にこの「なぜか」という考察をすると、その根本はあいまいな権力構造にあるように思える。確固たる法的な権力ではなく「先輩・後輩」、「御恩と奉公」、「親族の弱み」、「監督官庁と規制産業(命令ではなくお願いを繰り返す)」といった間柄であいまいな「影響力」を背景とした人事、命令(正確にはお願い)であるために当事者たちに都合の良い解釈が生じて行動が発生しなかったのではないだろうか。


 まず、このような権力構造では相手を慮ることや忖度することが非常に重要となるため、思い違いが感情のもつれが予想もつかない意思決定を導いている。そして、確固たる法的な力学ではないために、いざとなれば命令された側は内容が意に反している場合は知らんぷりを決め込むことができる。


 また、部外者であってもこのような構造を読むことができる人物は、弱みを握ったり恩を売ったりすることで内部に影響を及ぼすことができる。そうして侵入されると、内部には最早それを排除する力学が存在しない。


 上記のような関係性から、患部を取り除くためには「説得」を繰り返すか逆に弱みを握って排除するという政治的で非合理的な行動しかとれなくなってしまう。その結果が問題が判明してからも数千億を反社へと垂れ流した本事件へとつながったのであろう。